アン・モロウ・リンドバーグ『海からの贈物 (新潮文庫)』
これは現代人必読です!!というと誰も読む気にならないかもしれませんが、この本と出会えたことは大きな収穫でした。著者はあの世界初単独飛行機で大西洋横断を果たしたリンドバーグ大佐の夫人である、アン・モロウ・リンドバーグです。カバー・デザインが素敵です。『海からの贈り物』というタイトルからして、夏に読むのにぴったりだと思います。
さて、内容の方なんですが・・・これがとてもタイムリーなものだったのです。
”生活が何かと気を散らさずにはおかない中でどうすれば自分自身であることを失わずにいられるか、車の輪にどれだけの圧力が掛って軸が割れそうになっても、どうすればそれに負けずにいられるか、ということなのである。
そしてそれに対して、どういう答えがあるだろうか。直ぐに思いつく答え、また、完全な答えというものではなくて、私にはただ幾つかの手掛かりが、浜辺で拾った貝のような手掛かりが与えられているだけである。”
著者はこうして、海に転がっている幾つかの「貝」にインスパイアされながら思索を進めて行きます。
”ほら貝の簡素な美しさは私に、一つの答えは、そして或いは問題を解決するための第一歩は、自分の生活を簡易にして、気を散らすことの幾つかを切り捨てることなのだということを教えてくれる”
めちゃ鋭い指摘ですね。最近、私はアウトドア、特に「バックパッキング」という文化に興味があるので雑誌を読んだり、その関連の著書を少し読んだりしています。例えば最近読んだ『メイベル男爵のバックパッキング教書?最低の費用で最高のハイキング、登山、アウトドア・アドベンチャーを楽しむために』にこんな名言があります。「バックパッキングとは何を持っていかないかという策略のことである」という言葉があります。リンドバーグ夫人の著作を読んでいてこんなところに、繋がるとは思っていなかったで少し驚きました。さらに『海からの贈り物』から引用を続けます。
”しかしどうすればそれができるだろうか。今までの生活から完全に離れるということはできない。私には私なりの責任があって、それを捨てることはできない。無人島に一人で住むことも、家族に囲まれて私だけが尼さんの生活をすることもできない。またそれを私は望んでいない。私にとっての解決は、この世を完全に捨てることにも、完全に受け入れることにもなくて、その中間のどこかで釣り合いを取り、或いは、この両極端の間を往復する一つの律動を見付けなければならないのである。”
これは雑誌スペクテイター2009年春夏号の特集記事ともシンクロする問題ですね~。驚くべきはこの文章が書かれたのが1950年代のアメリカということです。自動車やテレビなど時代の最先端を行き、世界中の人々(言いすぎか・・)がアメリカの生活に憧れていた時代の真っただ中で、いわば逆の発想をしていたというのが素敵です。そして、こうした善悪の二元論ではない考え方は、とても誠実に問題を見つめているように思います。といってもこういった考え方は日本人にはなじみ深いものですが。
こういった問題意識をベースに『海からの贈り物』は思索が展開されていきます。もちろんこれだけの話ではなく、様々な話が展開されているのですが、私はこの「簡易な生活」と「律動」という考え方に現代をサバイブするヒントを得ました。
どうやって暮らし、いかに人生を過ごすかを考える大きなヒントがたくさんつまった本です。これは間違いなく現代必読の書です。
0 件のコメント:
コメントを投稿